下田の杜(もり)は人だけでなく、生き物全般に優しい場所。
人が近づくとパッと逃げてしまうハトも、ここでは「あら、いらっしゃ~い」
とのんびりお出迎えしてくれます。
カルガモも、人間の子どもたちが遊んでいる広場に仲良く登場です。
チョウもトンボも、バッタも間近で姿を見ることができます。
人間が観察しているのか、虫や鳥たちに観察されているのか…
不思議な感覚にとらわれました。
さてさて、「柏の里山~下田の杜」 第2回は昆虫観察とフクロウのお話です。
南柏駅からバスと徒歩で20分
下田の杜についたらまず、やること。
里内の散策です。
5月に植えた苗の成長も気になるし、今日はどんな草花や生きものに出会えるか、毎回楽しみにしています。
春から夏は昆虫たちが、とっても元気です。
この日もセッセとアオスジアゲハが、花の蜜を吸いに飛びまわっていました。
バッタ広場でクビキリギスも発見。
クビキリギスは、同じ種類でも周りの環境により体の色や形、行動や性格などが変わるらしいですよ。
定年後、下田の杜の生き物専属カメラマンとして、
後世に記録を残すために、シャッターを切り続けている御年79歳の田中二三さん。
下田の杜のシンボルマークになっている、フクロウの生態について教えていただきました。
世界に生息するフクロウは約220種 そのうち日本に生息するフクロウの仲間は11種類です。
キンメフクロウ、ワシミミズクはとても珍しく、観察記録は残っていますが、滅多にお目にかかることはできません。
コミミズクは、冬になると柏のあたりに必ずやってくるそう。手賀沼周辺でモグラやネズミを捕獲をするので比較的、見つけやすいフクロウの仲間です。
下田の杜では、留鳥のフクロウが確認されています。以前は渡り鳥のアオバズクが確認されたことも。
みなさんは、フクロウとミミズクの違いはご存知ですか?
一般的に耳のように見える羽角(うかく)があるのはミミズク、ないのがフクロウ。
しかし、アオバズクは「ズク」が付いていても羽角がなく、シマフクロウは、「フクロウ」の名が付いていても羽角があったりもします。
フクロウもミミズクも基本的には夜行性なので、視力もさることながら、とても耳の良い鳥です。
音を広くひろい、正確に狙いを定めるために左右の耳の位置が違うんだとか。
音を頼りに暗闇の中や、木の葉の下に隠れた獲物もしとめます。
そして、カラスがバッサバッサと大きな羽音を立てて飛ぶのにくらべ、フクロウは羽音が立てず飛べるのは、ギザギザの初列風切羽(しょれつかざきりばね)のおかげです。
新幹線500系のパンタグラフはこのフクロウの風切羽を参考に作られ、かなり騒音が軽減されたそうですよ。
関東地方に生息するフクロウのヒナが巣立つのは一般的に5月の連休頃になります。
しかし、なぜか下田の杜の主であるフクロウは、7月頃に巣立ちをすることもあり、6月は子育ての真っ最中です。
6月くらいになると、親が警戒の為に民家の近くまでやってきて、人や周囲の動物などの様子をうかがっています。
フクロウの子育ては、3~5月に木の穴(うろ)を巣にして2~4個のタマゴを産卵します。
産卵後メスはひたすらタマゴを温め、オスは狩り専門でタマゴを温めているメスに食料を運ぶという分業制です。
産卵から約1カ月すると孵化します。生まれたてのヒナは目も開いていないし、羽毛もありません。
2週間くらい経ち、羽毛が生えてヒナが体温調整できるようになると、やっとメスも狩りに出かけます。
ヒナは1日に200gくらいの餌を食べるので、両親はセッセとヒナに餌を運びます。
巣立ちまで、親鳥自身が食べる分と、ヒナの食べる分をあわせるとモグラやネズミを300匹以上捕らえなければならないので、なかなかの重労働です。
孵化から40日。そろそろ巣立ちの日を迎えます。
ヒナはまだ飛べないうちから、外に出るのですが…。
巣から出たものの、目標まで届かず〝ボットン″と地面に落ちてしまいます。
そうすると、トットットっと歩いていって、丈夫な足で木に登り、また飛び立ち、落ちる、登るを繰り返しながら、徐々に飛べるようになります。
(必死に頑張るヒナの姿が目に浮かびますね。頑張れ~!!)
フクロウのきょうだいはとても仲が良く、生まれてからケンカをしないばかりか、エサが足りなければ分け合い、並んで木にとまる姿も目にします。
しかし、今年はなかなかヒナの姿が見えません。
蛇はタマゴやヒナを好んで食べるため、もしかすると、蛇のお腹の中に入ってしまった可能性も…。
今年、カルガモはタマゴを産んでいましたが、残念ながらタマゴを温めるのを放棄してしまいました。
恐らく、蛇に出くわしたことが原因ではないかと考えられるそうです。
数年前にも、コゲラの巣がアオダイショウに襲われたことがありました。
親鳥がギャーギャー騒いでいるのを、『なにを騒いでるんだ!?』と、怖いもの見たさで、シジュウカラやオナガなど他の鳥が入れ替わり立ち替わりと見にきます。
野次馬ならぬ、野次鳥(笑)
Q:写真を撮り始めて15年で感じた変化はありますか?
A:秋に子育てをして南に帰る渡りのコースが変更したのか、渡り鳥の種類が少なくなったように感じます。
Q:自然のサイクルのどこか1つが変わると、芋づる式に他も影響を受けることがあると思いますが、留鳥の変化はどうですか?
A:下田の杜は自然を壊さない、農薬を使わない、草刈りもあまり綺麗に刈り込まず、虫や小動物が暮らしやすい長さを保つなど、生きものの住みやすい環境を保っているため、留鳥への影響は少ないと思います。
まぁ、鳥や虫たちからみたら、どうかわからないけどね(笑)。
でも、少なくともフクロウも、ここで人間が活動をしていることを承知の上で、子育てをしている。
人が自分たちに危害を与えるものでないと生きものたちも認識しているということだと思います。
Q:生きものの写真を撮り続けて、一番印象的だったことはなんですか?
A:ミソサザイという渓谷にいる鳥が、たった1羽だけ毎年、下田の杜にもやってきます。
味噌みたいな色をした小さな鳥で、初めに見つけた時は嬉しかった。
Q:昆虫について変化はありますか?
A:下田の杜には29種類のトンボが観察されていますが、少しずつ数が減ってきている気がします。
中には、絶滅危惧種にも登録されているような貴重なトンボもいます。
いろいろな原因があるのでしょうが、心配ですね。
Q:生きものの写真を撮り続けて、大変なことは何ですか?
昆虫の同定が大変だが、楽しみ。新種が見つかったら、嬉しいなという気持ちで写真を撮りながら、宝探しをしている気分です。
※同定とは、生物の分類上の所属や種名を決定すること。
日本全国に生息するチョウの種類は約250種。その中の約2割くらいの49種が下田の杜でも生息しています。
日本全国に生息している昆虫は、約3万種といわれていて、下田の杜では約3000種の昆虫がいるのではないかと考えています。
この5.4ヘクタールくらいの中に日本全国の1割にあたる種類の昆虫がいるということは、すごいことだと思います。
Q:下田の杜を訪れる方に向けてメッセージをお願いします。
A:下田の杜の近くの小学校では自然観察の授業があり、虫が嫌いな子でも、1時間くらいすれば虫に興味を持つようになります。
〝持ち込まない、持ち出さない″のルールを守って自然を大切にしてほしいですね。
私、実は虫全般が苦手でした。(今もすごく大好き好きとは言えません)
なぜ苦手だったか…。
理由は簡単で、よく生態を知らないから!
良くわからないものって、興味を惹かれるか、恐怖を感じるかのどちらかだと思いませんか!?
でも、こうして、ちょくちょくご対面の機会があったり、詳しい方から、生態について教えてもらう機会があると
不思議と親しみを感じるものですね~。
とはいえ、ゴキ〇リに親しみを感じる日がくるのは、まだまだずーっと先のことだと思います。
そして、親しみを感じるほど会いたくない!!
そして、今年は残念ながら、フクロウのヒナは確認できなかったそうです。
これも自然の摂理。
来年は可愛いヒナの姿が見られることを願いつつ、そっと見守りたいと思います。
<NPO法人下田の杜 里山フォーラム>
豊かな里山の緑やそこで育まれる多様な生きものに囲まれ、ほっとできる場所「下田の杜」。
本フォーラムは、この希少な「まちなかに残る里山」の保全を通じ、皆で『地域の宝』として自然や里山文化を残そう!と活動する団体です。
四季折々の里山体験や自然観察、学校教育支援などを楽しく行っています。
HPはこちら↓
https://shitadanomori-satoyamaf.org/