もうひとつの柏4:柏の梨づくり

ナシ農家ですから時節柄、ナシについてお話ししましょう。

わが家では8月から10月まで10種類以上のナシを収穫しています。
「幸水」「豊水」「あきづき」といった主力品種から、見た目より甘さで勝負の「秋麗」やユニークな形の「王秋」など店頭では見られない珍しい品種までお客様にお届けしています。

いろいろな早生種ナシ。幸水ばかりではありません。
左上から幸水、喜水、香麗、なつしずく。左下から愛甘水、甘ひびき、なつみず。



ナシは万葉集にも詠まれるほど古くから食べられてきました。
江戸時代に棚栽培の技術が花開き、文化としても貴重な果物です。
漢字では『利(り)のある木』で梨。漢方では熱からくる咳(せき)を止め、痰(たん)を抑えるといいます。
ナシ特有のシャリシャリとした歯ごたえは石細胞という成分で、お通じをよくしてくれます。カリウムが多く含まれ、血圧を下げる作用もあるようです。
ナシはそのまま生でいただくのが一番ですが、韓国や中国料理では肉を柔らかくするためにも使われているそうです。

さて、わが家のナシ作りのアピールポイントはその栽培法。
といっても、できるだけ農薬を減らし、まず土づくりから始めるという当たり前のことなんですけど。

皆さんは農薬についてはどのようなイメージをお持ちですか?
消費者の方にとっては「使う」「使わない」の all or nothing の二者択一かもしれませんね。でも、農業の現場では「できるだけ使わない」という第三の選択肢もあります。

農薬をできるだけ使わないということは、絶えず作物を観察し、状況を判断し、対応策を練るを繰り返し行う仕事が伴います。
その結果責任は自ら負わなければなりません。農薬は高額な資材ですし、散布作業も重労働。農薬を減らすことができれば経費も労務も軽減できる。
経営者として当然取り組まなければならない課題ですが、主体的にその作物にどう関わるかという生産者としての姿勢が問われる課題でもあります。

多くの作物の農薬散布については研究指導機関が『防除暦』というものを作っていて、何月の何日ごろこんな農薬を散布しなさいと教えてくれます。
それに従えば、よほどのことがない限り病害虫被害を最低限で抑えられます。
だからといって指示通りに作業するだけでは、ただでさえきつい仕事がなおさらつまらなくなります。気の乗らない仕事の結末は言うまでもないでしょう。
果樹は永年作物ですから、園内で越冬した病巣や害虫の卵は次年の発生源になります。野菜や米のように輪作や根こそぎ耕起して環境をリセットすることもできません。果樹の無農薬栽培が難しいといわれる由縁です。

そんなナシの減農薬栽培、わが家はどのように取り組んでいるのか。
むかしはとにかく散布回数で防ぐという考え方でしたが、今日では化学農薬に偏らずに、防虫網を張り巡らしたり、天敵や性フェロモンの利用など様々な方法を組み合わせた『総合的病害虫管理( Integrated Pest Management, IPM)』の病害虫防除が目指されています。

病菌類の活動は気温と湿度に影響されます。
そこで薬剤の残効期間と降雨時期のタイミングをはかるという方法でわが家では殺菌剤の散布回数をこの30年ぐらいの間に半減させてきました。
また、害虫のアブラムシには天敵テントウムシがいます。
1日にテントウムシの幼虫はアブラムシを20匹ぐらい、成虫では100匹ぐらい食べるといわれます。 ハダニにも天敵がいます。
木の株元だけ雑草を伸ばしているのですが、それは農薬散布時に害虫や天敵が逃げ込める避難場所になります。害虫がいなければ天敵もいませんので、矛盾するようですが害虫も残るようにしています。
アオムシ類には選択的に殺虫効果のある毒素を作る微生物を使った微生物殺虫剤が開発されています。
シンクイムシは小さな蛾の幼虫で梨の実の中に入り込む害虫です。
そこでオスとメスが出会わないように人工的に作られたメスのフェロモン剤を畑にぶら下げたこともあります。
ナシ畑には春から秋まで多目的防災網と呼ぶ網を被せていますが、それは降雹や鳥害を防ぐためだけでなく、細かな網の目ならカメムシも畑に入れません。
さらに、ムシは新月前後に行動が活発化するので、月齢に合わせて農薬散布することも。

テントウムシの幼虫


また、ナシ畑の中は全体に草を生やしています。
草が生えていたら肥料養分や水分がナシと競合するのではと心配されるかもしれません。ですが、余りある効果が期待できます。
外から有機物を運び入れなくても畑の中で供給できます。
枯れた草の根の部分は空洞になって地中に空気を取り入れる通気口に。
ライ麦などのイネ科植物は地上に延びた分だけ根も張るといわれていて、土壌硬度や透水性の改善が期待されます。
地表近くで根を張り巡らせている果樹園では園内を耕耘することができませんので、これは大きな意味を持ちます。
そのうえ地表面の暑さ寒さの緩衝材にもなります。大雨で表土が流されることも防ぎます。クローバーは空中の窒素を固定化するマメ科ですし、背丈が低いので畑全面覆われれば草刈り作業も不要になるかもしれません。

ナシの花のアーチ


肥料は自前の発酵肥料を作ったり、魚粉やカニガラなどの有機物を中心とした施肥体系にして、土中の微生物や細菌がうまく働けるように心がけてきました。
化学肥料の使用も控えて、窒素投入量も削減しています。
こういったことを数十年積み重ねると畑のあちこちにキノコが生えてきます。
これはナシ畑が林のようなバランスのとれた環境になった目印かなと考えています。

ナシ畑はキノコ山?


わが家のナシは2004年以来、千葉県特別栽培認証制度「ちばエコ農産物」を認証されてきました。しかし、農薬を取り巻く環境はさらに厳しくなりつつあり、毎年新たな挑戦の連続です。
今年は土着天敵等の生態系を最大限活性化させるために、天敵への影響の少ない殺虫剤に切り替えました。するとカマキリやカエル、ハチ類などがこれまで以上に多く見られるようになりました。

ナシの枝にちょこんとアオガエルが座っている様子は単調な作業を和ませてくれます。

アマガエルもナシ畑の住人


このような減農薬栽培はわが家独自の試みではなく、柏市果樹組合研究部の活動から始められたものです。
1990年代前半、当時は沼南町果樹組合でしたが、県内の市川や白井といった有力なナシ産地のなかで沼南の存在感を醸し出すために、難しいといわれていた減農薬栽培に敢えて取り組んだものでした。
若手農業者たちは今では当たりまえの農薬散布の記録から始め、病害虫の性格や農薬の特性をひとつひとつ学んでいきました。
全員の平均農薬散布回数も毎年減少し、成果が見えてきました。
それにより1999年の農水省の環境保全型農業推進コンクールでは優秀賞をいただき、農業雑誌『現代農業』の2001年6月号から連載で組合研究部の活動の様子が紹介されました。

当時の若手農業者もいまでは組合執行部。
組合員全員の農薬散布の記録は現在でも組合活動の一つになっています。
ナシ生産組合全体として農薬散布回数の少なさと減農薬への意識の高さはまだ全国的にみても胸を張れるのではないかと思います。

沼南町が柏市と合併して柏市果樹組合となりましたが、組合員38戸の小さな産地です。市民への知名度もまだ周辺産地に負けている感じですが、小さくともピリッと特徴ある産地です。ほとんどのナシ農家が直売しています。ぜひ柏でナシをお求めください。

この記事を書いた人:すぎの梨園 杉野 光明(すぎの みつあき)

父の代から沼南地区で梨の栽培を始める。1973年から本格的に梨栽培を手掛け、1988年に就農。2013年には梨栽培を中心に農産物やジャム類・ドレッシングなど加工品も開発。梨シーズン中は自家直売所のほか、道の駅しょうなん農産物直売所でも販売。
また、休耕地を有効活用したひまわり栽培に取り組み、食の地産地消を目指してひまわり油を販売中。

https://sugino74en.jimdofree.com/
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