柏で本屋をするということ1:柏の本屋の思い出

柏マニアNo.
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奥山
おくやま
めぐみ
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私は、今、柏市内で子どもの本を中心とした個人書店を経営しています。

しかし、オープンした2010年頃は、「本屋をやる」と言ったら「成り立たないよ」「やめたほうがいい」と多くの人に反対されました。

たしかに、2000年頃にアマゾンなどの書籍ネット販売サービスが始まってから、日本のリアル書店は、半減したと言われています。

そんな時代に、なぜ柏で本屋を始めたのかということは、次回以降に書きたいと思いますが、今回は、柏で生まれ育った私の、地元の本屋の思い出を書いてみたいと思います。

 

私が小学生だった1970年代、住んでいた光が丘団地のかたわらには、「多田屋」(あとで知りましたが、多田屋は1805(文化2)年に東金で創業した、千葉県最古の書店だそうです!) がありました。

雑誌や本といっしょに、いろいろな文具が置かれていて、本よりは便箋や筆箱やシール、また、お世話になった小学校の先生へのプレゼントなどを買いに行った記憶があります。

千葉県最古の書店のロゴ

 

中学生になって引っ越した増尾駅前にも小さな本屋があり、「別冊マーガレット」はじめ、マンガ雑誌などはそこで買っていましたが、受験用の参考書や問題集、毎年出る星占いの本など、特別な本は電車に乗ってスカイプラザ柏(現ビックカメラ)の中の「浅野書店」(創業大正12年だそうです! )まで行きました。

2階のフロアーを占める本と文具の充実ぶりにうっとりしました(その後地下に移転)。はじめて自分のために万年筆を買ったのも、「浅野書店」でしたし、本屋に出かけたついでに、「ボンジュール リヨン」というイトーヨーカドーの向かいにあったおしゃれなパン屋&カフェに寄って、ソフトクリームを食べるのも楽しみでした。

一時期「浅野書店」は西口駅前にもモダンな店構えの店舗があり、子ども心に、柏の本の文化が盛り上がっているのを感じていました。

浅野書店のブックカバー

 

大学に進み、児童文学を学び始め、さらに高校教員になった1990年代は、柏駅東口の「新星堂」にもよく行きました。

1、2階は音楽関係のCDや楽器のフロアでしたが、3階と4階を占める書籍のフロアーの中で、4階の一角にあった人文書のコーナーがたいへん充実していました。

蓮實重彦、柄谷行人、三浦雅士などの本に出会い、文芸評論のおもしろさに目覚めたのも、ここでした。

あの品揃えを今思うと、たぶん人文関係に目利きの書店員さんがいたんだと思います。また、児童書コーナーでは読み聞かせなどのイベントも開かれていました。

書店員さんの工夫や努力を感じていました。

新星堂のロゴ

 

一方、1980年代から1990年代は、全国的に子どもの本専門店が充実していた頃でした。

原宿に「クレヨンハウス」、渋谷に「童話屋」、千葉の大学のそばには「会留府(えるふ)」……。

児童文学の研究を始めた頃にめぐったこうした本屋さんもまた、私の心の中に本屋の種を蒔いていたのだと思います。

地域に根づいた本屋が街中や駅前にふつうにある時代の柏で育った私には、その後、本屋がどんどんなくなっていく時代が来ることなど、まったく想像していなかったのでした。

                                                                                                                   (つづく)

この記事を書いた人

奥山
おくやま
めぐみ
プロフィール

柏市内の豊四季団地、光が丘団地に育ち、現在も市内在住。

千葉大学大学院修了後、児童文学の研究・評論を続けながら、都立高校教員を経て、

2010年より児童書専門店「HuckleberryBooks」をひらく。

著書に『〈物語〉のゆらぎ』(くろしお出版 2011)、『多層性のレッスン』(りょうゆう出版 2024)、共著に『子どもの読書を考える事典』(朝倉書店 2023)、歌集に『窓辺のふくろう』(コールサック社 2017)など。

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