柏で本屋をするということ3:3 柏に本屋をひらいてから

柏マニアNo.
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奥山
おくやま
めぐみ
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今年2025年は、ハックルベリーブックス開店から15周年になります。店の経営状況については、毎年、店のホームページ(huckleberrybooks.jp)の店長ブログで決算報告を公開しています。

ふりかえると、この15年ほとんど変わらず、年度決算的にはやや赤字、ただ、店の家賃がなく、建物の減価償却費(老朽化をみこした経費)というのが計上されての赤字決算なので、実際には持ち出しの赤字が増えていくということではありません。

とはいえ、予想していた通り、店の収入ではまったく食べていくことはできず(これで家賃があったら、完全に持ち出しになっていました)、定休日に大学の授業を受け持ったり、通信講座のレポート添削をしたり、児童文学についての原稿を書いたり、といった別の仕事を持つことで、なんとか生活してきました。

 しかし、同時に、お金には代えがたいさまざまな利益や宝も、店をはじめたことで、たくさん得ています。まずは、子どもの本という文化財の意味を、より深く考えることができたということ。店に並べる本を選定し、原画展などのイベントで作家さんや画家さんのお話を聞き、文学茶話会やおはなし会を開き、また、実際のお客さんの反応を見ながら、子どもの本についていろいろと考えることができました。

そうした思索は、拙著『多層性のレッスン』(りょうゆう出版)にまとめたり、「日本児童文学」という雑誌の編集をしたりするときに、たいへん大きな力となりました。

 それから、たくさんの人脈。

もともと店を始める時から、本屋は単なる小売りだけでなく、文化の交流地点としての意味があると考えてはいましたが、店をはじめた翌年2011年に東日本大震災と福島第一原発事故があり、こうした災厄に直面したときにも、人とのつながりは大切なものだと改めて感じました。そんな中、店での出会いをきっかけに、2012年には有志が集まり、柏3丁目の路上にて一箱古本市「軒先ブックマーケット 本まっち柏」(軒先マーケット | 本まっち柏)を始めました。「本まっち柏」は今も続いていて、コロナ後は、ハックルベリーブックスの2階で箱貸しの形で、一箱ブックマーケット&ギャラリー「古本ヴィレッジ 本まっち柏」を開催しています(2025年も6月開催予定)。

また、店を開店したころ始まっていた「柏まちなかカレッジ」の活動の一環として「柏まちなか図書館」を、やはり有志でスタート。

いろいろと形を変えつつ、現在は、大切な人に本と花を贈り合う「本と花の日」(4/23)を広める活動もしています(2025年も4月にパレット柏にて「本と花の広場」を開催予定)。ハックルベリーブックスも、こうした活動の拠点としてかかわることで、たくさんの人と出会い、たくさんの人々がつながり合い、もちろん店も利用していただきました。

そして、何よりも楽しい!

 この15年間には、柏の街には、いろいろな本屋が生まれ、また、無くなっていきました。大型書店としては、柏駅周辺のデパートにあったウイングブックセンターや八重洲ブックセンター、ジュンク堂、古本屋のブックオフなどが、開店しては閉店しました。とくに、2018年に柏の老舗「浅野書店」が無期限休業となったのはショックでした。 

また、店を始めてから数年後に、契約していた仕入れ先の「取次」が倒産しました。つまりは、大量生産、大量販売(そして、大量返本)の戦後の本の流通のありかたが、なかなか成り立たなくなってきたのだと思います。欲しい本をただ買うだけでしたら、ネットで十分だからです。

しかし、その反面、大手「取次」を通さないで、出版社と直接取引したり、小さな取次制度を利用して本を仕入れたりするルートは、今、いろいろと開拓されてきています。そして、そうした流通の変化のせいか、個性的な品ぞろえと地元に根付いて文化の交流の場となる小さな本屋は、じつは全国的にあちこちで生まれています。本や人との偶然の出会いを求めて、本屋だけでなく、文庫や私設図書館なども生まれています。

柏周辺でも、絵本の古本屋だった「ブックススズキ」さんは「晴れの里えほん文庫」(「晴れの里えほん文庫」)として復活し、西口の古本屋「太平書林」も継続中、我孫子には「ノースレイクカフェ&ブックス」(NORTH LAKE CAFE & BOOKS | 本とレコードと美味しいコーヒー)、常盤平には「BREAD&ROSES」(本屋 BREAD & ROSES 松戸・常盤平のセレクト書店 - breadandroses-books-matsudo ページ!)といった個性的な店が開店して、本と人とまちがつながる拠点となっています。昨年は、私設図書館「本とカタツムリ」((1)本とカタツムリ(自宅書斎ときどき図書館)@流鉄小金城趾駅近所で開館(@hontokatatumuri)さん / X)もスタート。柏駅ビル内の「くまざわ書店」は、チェーン店としてはめずらしく、地域の本の活動に協力してくれています。

かしわインフォメーションセンターでも、ここ何年かは、柏図書館と連携して、本を通したまち作り、つながり作りに力を入れてくれました。

現在、柏で本屋をするということは、こうした地域のさまざまな本の場とつながり、柏の本の文化を底から支える地層のひとつになることだと思っています。これからも、社会や本の世界の変化を敏感に受け止めつつ、コツコツと本を読み、本を並べ、ローカルに考え、楽しんでいきたいと思います。

この記事を書いた人

奥山
おくやま
めぐみ
プロフィール

柏市内の豊四季団地、光が丘団地に育ち、現在も市内在住。

千葉大学大学院修了後、児童文学の研究・評論を続けながら、都立高校教員を経て、

2010年より児童書専門店「HuckleberryBooks」をひらく。

著書に『〈物語〉のゆらぎ』(くろしお出版 2011)、『多層性のレッスン』(りょうゆう出版 2024)、共著に『子どもの読書を考える事典』(朝倉書店 2023)、歌集に『窓辺のふくろう』(コールサック社 2017)など。

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