柏の生き物5:柏の獣たち

柏マニアNo.
13
小川
オガワ
幸夫
ユキオ

ファーム小川

プロフィール詳細

つい数日前のこと、朝市に向かう住宅街の道路で1匹の小さな動物が車に轢かれて死んでました。

可哀想と思いましたが、あまりに急いでいたためそのまま通り過ぎてしまいました。

同じように死骸を見かけた人達は犬だった猫だったと議論していましたが、私にはタヌキの子どもに見えました。

1時間後の朝市帰りには近隣の住人の方なのか移動してくれたようで、すでに死骸はなくなっていました。

道路ではタヌキの死骸をよく見かけますよね。タヌキは車のライトで立ちすくむ習性ある動物なのでとても車に轢かれやすいのです。
タヌキはもともと日本に生息する生き物で、本州の柏にいるものはホンドタヌキという種類になります。うちの畑にもここ20年ほど住んでいて、野菜や果物が食べられたり、ビニールハウスに穴を開けられたり、、ヒモを噛みちぎられたり、、と色々やらかしてくれます。今年もあちこちにタヌキの“ため糞(フン)”を見かけるので元気なようです(苦笑)。


森林や湿原が少なくなってきた環境なので、街中でも生きていかねばならない柏のタヌキですが、人間が見かけるようなタヌキはかなり弱ったものが多く、そのほとんどが“疥癬(かいせん)”にかかったタヌキです。疥癬にかかったタヌキとはヒゼンダニというダニによって毛が抜けた皮膚病タヌキで、ひどくなると衰弱してタヌキは死にます。畑でもそんなタヌキや死骸をよく見ます。毛の抜けたタヌキは何の動物かわからないような皮膚がカチンコチンの異様な灰色の姿なので、疥癬タヌキを見てまさかタヌキだとは普通は思えないでしょう。

タヌキ


ヒゼンダニは人間の飼う犬や猫からタヌキへ移ったと聞きますが、ほんとうにそうなのでしょうか?もしそうなら街中に進出したタヌキが確かにかかりやすいのかもしれません。ただ外で犬や猫を飼わなくなってる最近では他の新たな動物のせいなのかもしれませんね。


ちなみに我が家で近年困っているのはハクビシン。近隣の農家ではアライグマによる被害もあります。庭先に果物を植える街中はハクビシンやアライグマのほうがタヌキより生きやすいのかもしれません。

ハクビシン


さて、ちょっと前にもニュースになったようですが、柏市に現れた新しい動物としては“キョン”がいます。小型の鹿でもともと日本にはいなかったものが施設から逃げ出し増えたものです。房総半島南部から年々北上しています。私は数年前から4度ほど柏市でキョンと遭遇してます。1度目は崖を駆け上がるキョン。2度目は夜に「ギョン!!」という叫び。3度目は夜間に停めた車の前に堂々と現れました。1〜3度目は旧沼南町ですが、4度目は旧柏市の我が家からそれほど遠くない林で逃げる去る姿を目撃しています。

キョン


そしてもう一種類はとても大きな動物。こちらも数年前にニュースになってましたが“イノシシ”です。

私はまだその実物のイノシシを見ていませんが、人が立ち入らないような場所にエサ場やヌタ場を作っているのをよく見かけます。じきに農業被害などが報告されるだろうと想像しています。
ちょうどキョンやイノシシが柏市で見られるようになったのは、千葉県を2年続けて直撃した台風の頃です。増水した川やなぎ倒された森林から追われて、たまたま柏市に紛れ込んだ個体たちかもしれません。台風でなくとも自然の生き物たちの住む場所の撹乱は生息域を拡げるきっかけになります。ここ数年のナラ枯れによるドングリ不足もどう影響でるか心配です。
キョンがもともと千葉県にいなかったのは当然ですが、じつは千葉県でいま増えているイノシシも人為的に持ち込まれたものが始まりだということがわかっています。
千葉県のイノシシは1973〜1985年の約10年間は捕獲記録はなく、さらに遡って1955年頃からの30年間でもほぼ捕獲はゼロだったのです。つまり房総半島のイノシシは1度絶滅していたのです。それがいまや年に2万〜2万5000頭のイノシシが駆除されているという事態に。キョンも年に5000頭も駆除されています。
人間が自分たちの都合で持ち込んだら増殖してしまった、という生き物とどう折り合いをつけて付き合っていくか。キョンやイノシシに限らず、他の魚や虫や草も含めてこの先もずっと考えていかねばならないとても大きな問題です。作っている野菜に被害あると殺したくなるほどその生き物を憎くもなりますが、私はある程度は受け入れていかねばならないとも思っています。みなさんはどう思われるでしょうかね。


連載も最後になりましたが、他の生き物を良い悪いの2つに分けることなく、それらとどう共存すべきなのか一緒に考えてもらえると嬉しいです。
ありがとうございました。

この記事を書いた人

慶応大学 環境経済・農業経済

ファーム小川

小川
オガワ
幸夫
ユキオ
プロフィール

南増尾の農家「ファーム小川」代表。

慶應大学経済学部卒業後、農業機械メーカーを経て就農。

野菜と生き物の共生を追求した農業を展開し、完全無農薬栽培を実践。約1.5haの畑で100品目500品種の野菜と果樹を栽培し、市内の直売所やマルシェなどで販売をしている。

農業界の“ムシキング"と呼ばれるほど昆虫を愛し、日本ミツバチの保護にも取り組む。

2018年には著書『農薬に頼らずつくる 虫といっしょに家庭菜園』を発売。

参考サイト

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