こんにちは、所英明です。
この秋は大きな台風がふたつもやって来て、各地に様々な被害をもたらしました。被災されたみなさまには心よりお見舞い申し上げます。ホントの話、ぼくも生きた心地がしませんでした。ぼくの家は築50年の2階建て木造建築で、突風で屋根の一部に被害を受けました。被災された方々の心中をお察し申し上げます。
話は変わって、前回は柏市立図書館と「図書館のあり方」についてご紹介しましたが、今回から2回にわたって、図書館をめぐる市民の活動について紹介させて頂きます。
■柏まちなか図書館
「柏まちなか図書館」は、「柏まちなかカレッジ」の活動の中から生まれた市民グループです。
“まちカレ”については、今回詳しく触れる余裕がありませんが、現在3期目の市会議員・山下洋輔さんが10年ほど前に始められた“まちなかに学びの場を”つくろうという活動です。
「柏まちなか図書館」も美容室や喫茶店、いや、まちなかの何処にでも、空いたスペースの一角に小さな図書館があって、誰もが簡単な仕組みで借りることができるといいよね、という発想から生まれた取組みです。
面白いのは、本の貸し出しに通帳を模した地域通貨の発想が入っているところです。
通貨の単位は“ⓜ=まっち”で、スタート時点で誰もが300ⓜをもらえます。借り手も貸し手もそれぞれ通帳を持っていて、借りたい本があったら、テキトーに(じゃなくて、互いの合意の元に)「10まっちで、○○さんから、□□が『△△△△』という本を借ります。返却期限は×月×日」などと互いの通帳に記載します。これだけです。
あまりにユルくて拍子抜けした方、いらっしゃいませんか?
でもこれは、地域通貨の要は実は「信頼」なのだ、ということの証に他なりません。日本円でも米ドルでも、通貨の価値を保障するものは一体なんでしょうか?
難しい議論はあるでしょうが、要するに国家が「円」を保障しているので、○○円と書かれた紙切れを我々は信頼している、と言えるでしょう。
では、国のような強力な保障機能がない地域通貨の場合は如何に?
おそらく、同じ地域に住み、働き、暮らしている住民同士の信頼感、しかないのです。言ってみれば体温のあるつながりです。同時にそれが、地域通貨がある程度以上には広がらない理由にもなっているのでしょうが。
興味をお持ちになったら、ぜひ実際のまちなか図書館をお訪ねになるのが良いと思います。とは言っても、残念ながらまだこの試みは十分な広がりを持っていません。差し当たり、ハックルベリーブックスを訪ねて、店主の奥山さんにお聞きになるのが良いと思います。簡単に通帳を作り、直ぐにまちなか図書館の利用者になることができる筈です。
この試みが更に面白いのは、貸し借りに本だけを想定していないことです。
例えば、あなたが本を借りているだけだったらどうなるでしょう。300ⓜはあっという間に無くなってしまいませんか?
では、自分もどこかに図書館を開設して、貸し手になれば? それもいいでしょう。ただ、別の方法もあります。例えば、通帳を持っている者同士で、簡単な仕事を頼むのです。買い物でも、調子の悪いパソコンのメンテでも、何でも構いません。いくらで請け負うのかは、その都度当事者同士の話し合いで決めます。それを互いの通帳に書き込む。それだけですが、まさに地域通貨として機能する、ということですね。
メンバー達は、上記のほかに「まちなか図書館祭り」の開催や、野外で集まってただ一日読書する「読書キャンプ」などの活動も行って来ましたが、今は大切な人が互いに本やバラを贈りあうスペイン・カタルーニャ地方の風習である「サン・ジョルディの日」の柏版として、来年4月19日(日)に「柏サン・ジョルディの日」を開催しようという企みに夢中になっているところです。そのために、まずは「サン・ジョルディの日─柏プロジェクト会議」(11月2日18:30〜20:30パレット柏多目的スペースA)を開催し、プロジェクトメンバーを募集する、と鼻息も荒いです。
さて、どうなりますことやら。(笑)
■今月の本/著者■赤頭巾ちゃん気をつけて☆庄司薫作(新潮文庫)
第61回芥川賞受賞作である「赤頭巾ちゃん気をつけて」とその作者の庄司薫さんについて、改めて書こうとしても、どこから書けばいいのか判らない、という気持ちになります。
この小説は、学生運動華やかなりし1969年に発表され、圧倒的な評判を呼び、翌年には映画化されました。「赤」頭巾のあとには、赤と同じく庄司薫くんを主人公とする四部作(作者名と同名の主人公が活躍するさよなら快傑黒頭巾、白鳥の歌なんか聞こえない、ぼくの大好きな青髭)が書き継がれ完成した後、作者庄司薫さんは筆を擱いて、18歳の主人公庄司薫くん共々沈黙してしまいました。そういうとても不思議な経緯を持つ小説であり作者であり、ふり返ってみて、おそらくはぼくが最も影響を受けた作家でもあります。
初めて読んだのは高校三年か、大学一年か、とにかく一発で参ってしい、(ある意味可笑しな話ですが)自分のことが書かれているような気がしたものでした。それまでにも、物語の面白さ、醍醐味を味わった小説は幾多となく読んでいました。でも、物語の主人公に没入し、ほとんどアイデンティファイしてしまうような経験はその時が初めてでした。その時から、随分と時間が流れ、今では作者と主人公を客観視出来るようになったことも確かです。でも、だからこそ、あの時あれほど共感できる小説を持てたことの幸せ、を感じるのです。
ちなみに、赤頭巾を読んだあるピアニストが、その後作者と知りあい、その人の奥さんになって、長く幸せな結婚生活を続けられたあと、2016年に惜しまれて亡くなりました。中村紘子さんといいます。
柏まちなか図書館
https://kashiwamachinaka.jimdofree.com/プロジェクト/柏まちなか図書館/
サン・ジョルディの日 柏プロジェクト会議 開催!
https://www.facebook.com/events/443157059740287/